幼いころに何度か地元の祭りに連れていってもらった。
お祭りと聞くだけでワクワクし、連れていってもらえるだけで楽しい思い出になる。私の中ではそういう記憶になっている。
親の手を引き、あるいはきょうだいと手をつなぎ、屋台の食べものをねだり、エアバルーンの中に何度も入りたいと駄々をこねる。
帰るころの記憶がないのは、疲れて眠っていたからだろう。
あるとき、会場内の広場でヒーローショーをやっていた。私はヒーロー番組をあまり観ないこどもだったので、そこから来る遠慮なのか遠目に見ていた。
いかにも悪役という風貌の黒っぽい装束に身を包んだ人が、近くにいたこどもをさらう。多分同じくらいのこどもだ。泣き喚きはしないが、少し怯えたようす。
おまえ、おれの真似をしろ、と間抜けな動きをする。とてもよく覚えている。ひよこぴよぴよ、ひよこぴよぴよ、いちにいさんし、かわいこね、と振りつきで悪役は手本を見せた。予想外のことに私は笑った。
もちろんさらわれたこどもは真似をせず、そのあとどうなったかわからずじまいだ。そこで親が来て私は一緒にそこを後にしたからだ。自分もこどものくせに、自分がよく知らないものに執着をすることを変に思い離れてしまった。多分、ヒーローが助けに来て、解放されただろう。
私は今でもあの悪役の間抜けな動きとセリフ回しをずっと忘れられないままだ。あのときも、今でも、私がさらわれていたらあの真似ができただろうか、いざ悪役に手を引かれたら怯えが勝ってしまうのだろうか、と考える。
しかし忘れられない理由は、大人が全く恥じずにあの挙動を為したことだと思う。だからこそ私はあのときあの悪役にならさらわれてもいいかもと思ったのだし、あの悪役が悪人だとは思えなかったのだろう。
私もいつかあの悪役のように、どこかのこどもにとって、ああいう大人もいいものだ、と思ってもらえる大人になるだろうか。
姉の子の前で全力でふざけながらたまにそんなことを考えている。